[受験特集]看護学部入試のポイント
看護進学アドバイザーの小田泰之氏が入試のポイントを紹介!
2025年度 看護学部入試のポイント Vol.1
このたびの令和6年能登半島地震で亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。また皆様の安全と被災地の一日も早い復旧・復興をお祈り申し上げます。
私は看護進学アドバイザーの小田泰之と申します。私が今この原稿を書いている2024年3月25日、2年前に勃発したロシアのウクライナ侵攻による戦争は未だ終焉をみることはなく、さらにイスラエルとイスラム組織ハマスの戦争まで勃発してしまいました。いかなる大義があるにせよ非人道的な殺略行為は許されることではなく、一刻も早い戦争の終結と他の国家を巻き込んだ戦闘にならないことを祈るばかりです。また世界中を震撼(しんかん)させたコロナウイルス感染症の恐怖からも解放され以前の生活に戻ったと言えるでしょう。もちろん皆さんにとって重要な来年度の入試は今年同様、脱コロナの形で実施されることでしょう。そこでこれから一年間、複数回に分けて大学・看護学部に関わる様々な情報をお伝えしていこうと思います。さて来年の4月、みなさんが看護学部の学生として新たなステージに立つためには大学の選抜試験に合格することが絶対的な命題となります。そこで第一回目の今回は受験生に人気が高い看護系大学における入試状況(環境)について述べていくことにしましょう。
あまり実感を覚えることはありませんが、実は今の日本はデータの数字上では景気が良いのです。今年2月には日経平均株価が35年ぶりに最高値を更新し、企業業績が好調外国人観光客によるインバウンド消費で宿泊や観光、飲食業は空前の人手不足となっています。実際大学生、高校生の就職内定率はバブル期(1989年)を上回る数字が発表され、就職環境は過去最高に善くなっている状況です。わざわざ看護に進学しなくても売り手市場では就職先がいくらでもあるからと看護系の入試倍率は18歳人口の減少などの複数要因も含め少し低下の方向にあります。しかしながら皆さんが中学校や高等学校の教科書で習った2008年のリーマンショック(世界金融危機)は世界中を巻き込んで景気悪化させたと同時に大量の失業者を出すこととなりました。世界的に見ても経済・雇用環境の悪化の際は資格取得できる領域の学部・学科の受験倍率の上昇が見られます。 確かに2008年のリーマンショックにおける世界的に景気の悪い環境下では一般大学へ進学しても思うように就職先が確保できないということもありました。その後数年間は新卒・中途における就職難が続いたことから看護系受験者は社会人も含め大幅に増加した経緯があります。これに対し2019年までの経済環境の回復で看護系受験者は若干の減少に転じてきたところにコロナショックです。今後はコロナの影響はなくなりますが、中国経済の減速やウクライナやイスラエル情勢の行方次第で世界経済への影響は多大だと考えられます。そして少し難しい話になりますが欧米各国はインフレからの脱却に向けて、長く続いた超低金利時代から利上げへと変革期を迎えています。アメリカではわが国の日本銀行にあたるFRB(連邦制度準備理事会)が利上げを11回も繰り返し政策金利は現在5.25~5.5%となっています。わが国においては景気低迷から脱却するために政策金利は金融緩和により17年間もゼロ%に抑えられてきました(ゼロ金利政策)。しかし直近で企業業績の回復やインバウンド需要の回復、さらには春闘(企業の労働組合が賃上げ要求する闘争)で十分なベースアップを各社が勝ち取ったことで日銀の植田総裁は日銀の金融決定会合において金利を上げてゆく方向に舵を切るアナウンスをしました。これにより本当に日本の景気が回復していくのか、それとも前述の危機要因により景気は失速していくのかを見極める新たな段階に入ったと言えるでしょう。これら状況を鑑みた時、18歳人口の減少で大学全入時代と言われて久しくなったものの、看護系に関しては根強い受験者層が存在しているため、増減は多少あれども来年度の看護系受験者数は今年度同様と推察されます。
これを読んでいる皆さんの中にも何か資格を取りたいと考え、数ある資格の中でも将来性や就職の有利さ、さらには経済要因等(※後の回で特集予定の奨学金)を考慮した優先順位の中で、看護職をめざすことを決めた人もいることでしょう。このような社会・経済環境下において、やりがいを感じながら社会に貢献し、なお且つライフワークとして安定した職業を考えた時、看護や医療系の仕事は真っ先に候補として挙がってきます。これは上述しましたが日本だけではなく、世界的に見ても同じことがどうやら言えるようです。下の※表①をご覧ください。看護系の大学・学部学科別の入学者数が他学部と比較して毎年の様に増加し、平成13年度~令和5年度の20年あまりで入学者数が約4.2倍・18,500人増加していることが読み取ることができます。見方を変えれば四年後の就職を視野に入れた受験生は文系学部(文・法・経済・商・経営・社会学部など)への進学をあえて控えてきたと言えるでしょう。
※表1(クリックで拡大します。)
このような受験者の増加傾向は上述の理由以外に、健康や介護など高齢社会への国民の関心はもちろん、生活習慣病の予防のための『メタボリック健診』や『後期高齢者医療制度』など政策医療の改革により医療は私たち国民にとって大変身近なものとなったことが看護系志望者増加の一因にもなっています。政策医療の流れを考えても、従来通り病棟でケアを実践することはもとより、地域包括医療システムの下、訪問看護師として在宅患者さんのケアは必要度の高いものとなります。それは経験則に頼るものだけでなく、教養科目を含め患者さんに対してエビデンス(根拠)を持って全人的ケアを実施することが重要となり、医療部分はもとより社会・経済的な側面からもアセスメント(情報収集と理解、予測、判断など)するアビリティ(能力)の基礎的、広角的な学びを大学では多種多様な環境から得ることが可能であることも人気のひとつです。さらには、今回のコロナウイルス感染症における看護・医療職の活躍はもとより、今年元旦の能登半島地震や13年前に起こったわが国未曾有(みぞう)の不幸な災害となった東日本大震災の報道を通じて、活躍する看護師の姿を見て感動や共感を覚え、看護の道を自ら歩み始めた受験生がいることも追記しておきます。このような看護系への進学モチベーションの高揚は高校生だけに留まらず、とりわけリーマンショック以降、社会人からの進路変更組も増加しており、実際に入試では大卒社会人が受験でも台頭し、一般受験者を脅かす存在となっています。またその進学先でもある看護系大学や看護学部が数多く開学や新規に設置(令和5年3月末現在299大学?日本看護系大学協議会会員大学数 )されたことで看護師になりたいと切望する受験生の受け皿となりました。ところでこの299大学という数は、全国の大学のうち1/3が看護系学部もしくは学科を設置したことになり、看護大学のみで一学年定員が※表①からも分かるように2万4千人を超えています。令和6年3月22日に発表された第113回看護師国家試験の全体を見ても今や3人に1人が看護大学卒業者の時代となってきました。【受験者数63,301人合格者55,557人 全体合格率87.8%(新卒合格率93.2%)】このように大学が増加した理由のひとつに、高度医療に伴う高度看護ケアがあげられます。専門学校では学ぶことのできない看護専門知識の習得は、受験生に意識改革(高度看護ケアの必要性)と意欲(高度看護ケアの知識を学びたい)を与える結果となり、現在の高倍率の要因になっています。いずれにせよ『看護』、とりわけ大学というアカデミックで恵まれた教育環境で『看護』を享受したいと考えることは自然な流れでもあり、社会のニーズだと言えるでしょう。 最後になりましたが昨年度入学生から新カリキュラムへと移行しています。主な変更点は大まかに以下の通りです。
●専門学校総単位数が97単位から102単位に増加。大学は124単位(変わらず)看護コアカリキュラム102単位
●ICTを活用するための基礎的能力やコミュニケーション能力の強化
●臨床判断能力等に必要な基礎的能力の強化のため解剖生理学等の内容を充実
●対象や療養の場の多様化に対応可能なように内容を充実させ「在宅看護論」から「地域・在宅看護論」に名称変更し内容を充実
次回は大学と専門学校の違いについてお話しする予定です。